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デジタルヘルス – ビジネスは今後どう変わる?

2016年はヘルスケア業界史上に残る画期的な技術革新の年となりました。ヘルスケア業界ではこの年、常識を打ち破る新たなテクノロジーが続々と登場し、地理・社会・政治といったその他の主要分野のトレンドをはるかに凌ぐ形でビジネスの変革が進むことに。業界関係者の中では急激な変化に追いつけず、既存のビジネス感覚と新しい現実の狭間で不安をぬぐい切れないといった声も聞こえてくるほどでした。果たして一体、何が起こったのでしょうか。

Rajkin G                       2016年12月1日

 

2016年はヘルスケア業界史上に残る画期的な技術革新の年となりました。ヘルスケア業界ではこの年、常識を打ち破る新たなテクノロジーが続々と登場し、地理・社会・政治といったその他の主要分野のトレンドをはるかに凌ぐ形でビジネスの変革が進むことに。業界関係者の中では急激な変化に追いつけず、既存のビジネス感覚と新しい現実の狭間で不安をぬぐい切れないといった声も聞こえてくるほどでした。果たして一体、何が起こったのでしょうか。

 

SMAC(ソーシャル、モバイル、アナリシス、クラウドの頭文字)に代表される新技術の出現は、たびたび「情報革命」「インターネットの第3の波」「第3のプラットフォーム」などと称され、大混乱に近い破壊的イノベーション(デジタル・ディスラプション)を巻き起こしました。この世界に存在するすべてのものがネットワークで「つながる」 ― この現実はヘルスケア業界をはじめとするさまざまな業界を激震させました。まずは産業化時代の幕開けとして、シリコン相場の下落に伴い、常識を覆す米粒大の超小型「エレクトロニクス」が誕生。その後、モノのインターネット(IoT)やマシンツーマシン(M2M)などの台頭によりモバイル、ワイヤレス、センサー技術が発展し、産業機械だけでなくコンシューマー側の機器までが「常につながる」状態へと進化しました。その結果、現在のエコシステムはUberやNetflixなど他業界のソーシャルメディア戦略に影響される形で、限りなくコンシューマー寄りに変化してきたと言って良いでしょう[1]。またクラウドコンピューティングの登場により、コンピューティング技術や各種処理までもが従来のデスクトップからフロントエンドBYOD端末(スマホで使える診断ツールなど)やバックエンドのラックへと移行。結果として、エコシステム全体で約70億人のコンシューマーが100億台の端末でつながるというかつてない状況を迎えるにあたり、関係者間では懸念の声も上がりはじめています。しかし、ここから膨大なビッグデータが生じ、その解析に際して分散処理(Hadoop)、アナリティクス、ディープラーニング、機械学習などの新しい解釈技術がまた生まれることになるため、この勢いはまだしばらく続いていくと予想されます。また、これらの破壊的技術により、コミュニティケア、人工知能(AI)による意思決定のサポート、3Dプリンタ製インプラント、消化型センサー、ゲーミフィケーション、アナリティクスベースのウェルネス事業、マイクロチップでの臨床試験など、新分野のスタートアップに代表されるマーケットリーダーたちの快進撃は少なからず中和されることでしょう。さらに、米国の「Precision Medicine Initiative(個別化医療に関する取り組み)」に代表されるように、パーソナライズドケアやプレシジョンケアに特化した運動も今後盛んになってくると考えられます。

 

 

進化するヘルスケア業界、革新の主役は

技術界の大混乱の渦中で、ヘルスケア分野のゲームチェンジャーとして2つの要素が注目されています。(1) M2M、C2M、C2C技術による先例のない「つながり」の創出と、(2) コンシューマーテクノロジー&つながりを活用した、医療機器およびケアの顧客中心主義化です。

仮想ケア、スマートケア、インフォームド・ケア、プレシジョンケア、パーソナライズドケアなどさまざまな言葉が登場しているように、この技術革命は「ケア」をキーワードに広く普及していくと予想されています。加えて、米国のAffordable Care Act(ACA / 医療費負担適正化法)など「医療の質の向上」も追及した価値重視のケアデリバリーにみられる政治・立法変革、ビジネス界で相次ぐ例を見ないM&Aや企業再編、相互運用性やサイバーセキュリティに関する新基準・規制ガイドライン、またそれら自体(組み込みソフトウェアシステムやソフトウェア医療機器 “SaMD”のモデルベースデザイン、サイバーフィジカルシステムなど)の基本設計および開発の見直しなども変化のきっかけとなるでしょう。ここから考えられる破壊レベルは以下の2つです。

 

  1. 新分野ウェアラブル機器、モバイル医療アプリケーション、mHealth、コミュニティ&ケアコーディネーション関連ソリューションなど、スタートアップ企業に代表される「顧客中心」のセグメント
  2. 既存分野各業界で(主力製品などの)コア・アイデンティティを確立しているリーダー企業が席巻するセグメント。第3のプラットフォーム技術を用いて既存製品やソリューションの革新を目指す

 

しかし、業界では新技術の採用を望まないという声も往々にしてあります。ヘルスケア業界はそもそも保守的なアプローチを好む傾向にあり、人体へのリスクや個人情報の漏洩等に対する不安がささやかれています。継続的なケアやより良いワークフローの確立を目指して、新技術をどのようにモデル化していくかが懸念払拭の鍵となります。ヘルスケア界では医療技術やプロトコルの進歩によりさまざまな治療法が誕生する反面、通信・データ表現面での相互運用性基準がないことから異なるシステムや技術の統合が難しいという状況が続いていました。しかし、大規模な破壊的イノベーションが迫りくる今、各業界人が(不満はあれど)デジタル、IoT、アナリティクス、クラウド、モバイル戦略を活用してどう新たな仕組み作りを進めていくのか注目したいところです。

 

「価値」をコアにヘルスケア事業の再定義なるか

デジタル・ディスラプションがヘルスケア業界の転機となりうる反面、ヘルスケアのビジネスモデルには従来より変化が求められていたのも事実です。現代医学により生活の質は向上し、子供の平均余命は過去25年間だけで7年も増加[2]。それを裏で支えるビジネスモデルは、当の昔にこの医学の躍進に追いつけず、持続不可能な状態となってしまっていたからです。WHOによれば、過去20年間で世界の医療費は世界的なGDP成長率を2%超過。進む高齢化に慢性疾患の増加、介護費の高騰により、この状況に改善の兆しはみられていません。政府を含む業界関係者は、アカウンタビリティやケアの効率向上、可用性と質の向上など、業界全体を通じた変革の必要性に迫られています。ケアの提供と日々の運用にかかるコストが増大する中、まずはモニタリングとアナリティクス面の強化を念頭に、従来の診断的アプローチから予防的アプローチへの変革が不可欠だと考えられています。

 

現在、ヘルスケアのビジネスモデルはそれ自体が「価値中心」主義へと移行しています。そんな中で、業界ではアカウンタビリティをキーワードに、各企業のコアビジネスを超えたコラボレーションで継続的なケアを実現し、新たな医療の「価値」を築こうという傾向が高まりつつあります。この結果、2016年は企業同士の合併熱が例になく高まった年となりました[3]。これまでに類を見ない企業同士の合併・提携など、この現象は資金力のある企業同士がリスクを回避し、従来のポートフォリオを超えて市場リーチを広げようという意識の表れだと言えます(製薬会社が “Beyond the Pill = 医薬品提供にとどまらない” 製品・サービス企業を買収、テック企業が第3のプラットフォーム技術基盤の強化を目指してクラウド/アナリティクス系のスタートアップ企業を買収するなど)。また米国放射線医学会(ACR)でも、「Imaging 3.0」と呼ばれる放射線医との協調を重視したフレームワークへの変革を進めています。事実、この変革への期待に加えて、コンシューマー側の懸念も変化を推し進める重要な要素です。PwCの調べによれば、医療サービス利用者の40%がハッキングを恐れて医療機関(HCO)を避ける傾向にあり、「接続された」端末のエラーを警戒する割合は50%にものぼるとか。新技術の導入にあたっては、サイバーセキュリティの整備が不可欠となるでしょう[4]

 

ヘルスケアの未来:デジタル化はどこから着手すべきか

現在、業界のリーダーたちはデジタルヘルスに向けた試みを着々と進めています。世界経済フォーラムでも、ヘルスケア業界のデジタル変革に関わる主要なデジタルテーマと施策をまとめたガイダンスが発表されました[5]。しかしこれもまた、業界人たちが既に独自のデジタル施策を進めていたさなかのことであったため、新たな混乱が生まれる可能性も否めません。それゆえ、メーカーやサービスプロバイダにとっては、既に(第3のプラットフォームを用いた)ソリューションを導入済であったとしても、このガイダンスが技術と規制、そしてオープン標準をうまく合流させる着地点を見出すひとつのきっかけとなるでしょう。これに関連して、米国食品医薬品局(FDA)によるデジタルヘルス規制プログラムは現在浸透しているもののひとつです。FDAはメーカーとサービスプロバイダの双方にとって投資および改革が必要とされる9つの分野を発表[6]。モバイル/ワイヤレス技術はケア分野に必須であるとし、メカトロニクスから電子組み込みシステム(SaMDおよび医療機器データシステム)への移行を進めるための新しい設計・開発モデルの必要性を示唆しました。また移行に際してセキュリティと相互運用性面での課題も変わりゆくという点も強調されました。FDAのプログラムが「未来感」を押し出さず、ヘルスケア業界における新規・既存分野の双方を加味した実用的な側面を重視しているのは非常にユニークだと言えます。また欧州医療機器規則(MDR)の最新版(2016年6月)でも、「ソフトウェア」がアクティブな医療機器として分類されるなど、本格的なデジタルヘルス時代は既に幕を開けています。ヘルスケア界のデジタル動向に、今後も目を向けていきたいところです。

 

[1] http://healthstandards.com/blog/2015/01/28/future-of-medicine-is-in-your-hands/

[2] Global Health and Aging – World Health Organization,

 http://www.who.int/ageing/publications/global_health.pdf

[3] Top Health Industry Trends and Issues 2016: PwC,

 www.pwc.com/us/en/health-industries/top-health-industry-issues.html

[4] Cyber security: Top Health Issues 2016: PwC,

 http://www.pwc.com/us/en/health-industries/top-health-industry-issues.html

[5] Digital Transformation of Industries: Reports: World Economic Forum,

 http://reports.weforum.org/digital-transformation-of-industries/

[6] Digital Health – FDA, http://www.fda.gov/   › Medical Devices › Digital Health

 

著者

Rajkin G

rajkin.g@quest-global.com

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